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タイトル

博多人形事件 (長崎地裁 佐世保支部 昭48.2.7)

まとめ


意匠登録の対象となる美術工芸品であっても、著作物であれば著作権により保護される。

 @著作物が意匠法の保護の対象として意匠登録が可能であるからといっても、もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題であって、両者の重量的存在を認め得ると解すべき)
 A美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として製作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。


内容(全文)


  主   文
1 債権者が各債務者に対し保証としてそれぞれ金五〇万円を立てることを条件として
(1) 債務者らはいずれも別紙物件目録記載の著作物を複製し、また債務者らの複製した右著作物の複製物を頒布してはならない。
(2) 債務者らの右著作物の複製物、その半製品および石膏型に対する各占有を解いて、長崎地方裁判所佐世保支部執行官にその保管を命ずる。
(3) 執行官は右物件を債務者らにおいて使用しないことを条件として債務者らに保管させることができる。この場合には執行官はその保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。
2 申請費用は債務者らの負担とする。

  理   由
第一 当事者の求める裁判
一、申請の趣旨
1 債務者らは、いずれも別紙物件目録記載の著作物を複製し、または債務者らの複製にかかる右著作物の複製物を頒布してはならない。
2 債務者らの前項記載の著作物の複製物、その半製品および石膏型に対する占有を解いて執行官に保管を命ずる。執行官は右物件を債権者において使用しないことを条件として債権者に保管させることができる。
3 右の場合において執行官はその保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。
二、申請の趣旨に対する答弁
債権者の申請を却下する。
第二 当事者の主張
一、申請の理由の要旨
1 別紙物件目録記載の著作物は、申請外AおよびBの両名が昭和四一年四月から五月にかけて共同創作したものである。
2 債権者は、昭和四一年四月から五月にかけて右AおよびBの両名から前項の著作物にかかる著作権を譲り受けた。
3 しかるに、債権者波佐見陶芸有限会社および同Cは、ともに前記著作物にかかる著作権が右両名以外の者に属することを知りながら、共同してほしいままに、遅くも昭和四六年六月ごろ以降現在に至るまで引き続きこれを複製し、また、債務者奥川陶器株式会社および同Dは、ともに前記複製物が右波佐見陶芸およびC以外の者の著作権を侵害して製造されたものであることを知りながら、共同してほしいままに、右期間これを頒布して、それぞれ前記著作物にかかる債権者の著作権を侵害した。
4 よって債権者は、本日債務者四名を相手取つて御庁に対し著作権侵害の排除等を請求する本案訴訟を提起したが、債務者らの著作権侵害行為が現に継続している以上、本案判決確定に至るまでこれを放置しておいては、回復し難い損害を蒙るので、本申請に及んだ次第である。
二、申請の理由に対する答弁ならびに債務者らの主張の要旨
1 申請の理由1、2、4記載の各事実は不知。申請の理由3記載の事実中債務者らが債権者の著作権を侵害したとの事実を否認し、その余の外形的事実は認める。
2 別紙物件目録記載の人形は量産として産業的な利用に供することを目的として創作されたものであるから著作物とはいえない。
第三 当裁判所の判断
一、本件疎明資料および審尋の結果を総合すると次の事実が一応認められる。
1 別紙物件目録記載の作品(以下本件人形と略称する)。は通称博多人形と呼ばれる高さ約一九センチメートルの彩色素焼人形で、右は粘土製の人形生地を素焼きのうえ絵の具によつて彩色した工芸品であつて、石膏で型取りして多量に生産し販売することを目的として作られるもので、本件人形も現にそのように生産販売されているものである。
2 債権者は右の博多人形を製作することを目的として設立された有限会社である(なお、右会社の製作した博多人形の販売は資本的に同系の申請外井原博多人形有限会社で行なつている)。。本件人形の「赤とんぼ」は同社の新人形開拓計画の一環として製作されたもので、昭和四一年二月から六月にかけて童謡人形六点のうちの一点として製作されたが、右は「赤とんぼ」なる題を債権者側で決定したうえ、人形師の申請外Aに依頼して粘土による原型となる人形を作らせ、これを素焼きしたものを人形絵師の申請外Bに依頼して彩色させ、よって完成させたもので、右完成に至るまで債権者側ではそのイメージに合うように右二人の製作者に種種注文をつけて修正させつつ製作させたものである。そして債権者はそのころ申請外Aに対し型料として、同Bに対し絵付け料としてそれぞれ相当の金銭を支払い、同時に本件人形の複製、販売の権利を取得した。
3 右「赤とんぼ」は発売以来好評を博し、その売上額も年々増加し、昭和四六年度においては申請外井原博多人形有限会社の売り上げ本数は八万四四五八本、売り上げ金額は金二、五三三万七、四〇〇円に達し、総売り上げ額の約一八パーセントを占めた(なお同社の取扱人形は約七〇点である)。
4 債務者波佐見陶芸有限会社および同C(右会社の代表取締役)は同Dに依頼されて本件人形の複製物を手に入れ、これを原型に使用し石膏で型取りしてさらに複製物を作成するいわゆる「ポン抜き」という方法で本件人形とそつくりそのままの形、彩色をした粘土の素焼人形を模作し(もつとも、債務者の複製物は、債権者の複製物を原型に使用するため、乾燥、焼き締めの過程で水分を失うため一割程度縮少している)。昭和四六年六月以降現在までその模作を続けており、また債務者奥川陶器株式会社および同D(右会社の代表取締役)は右「ポン抜き」により模作された人形を本件人形「赤とんぼ」と同一名称を付けて右の期間販売している。
二、本件人形「赤とんぼ」は著作物に該当するか。
  著作権法の対象となる著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものでなければならないが、前記認定のとおり本件人形「赤とんぼ」は同一題名の童謡から受けるイメージを造形物として表現したものであつて、検甲一号証によればその姿体、表情、着衣の絵柄、色彩から観察してこれに感情の創作的表現を認めることができ、美術工芸的価値としての美術性も備わっているものと考えられる。
  また美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として製作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。さらに、本件人形が一方で意匠法の保護の対象として意匠登録が可能であるからといつても、もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題であって、両者の重量的存在を認め得ると解すべきであるから、意匠登録の可能性をもつて著作権法の保護の対象から除外すべき理由とすることもできない。従って、本件人形は著作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである。
三、前記認定のとおり、本件人形の複製、販売の権利、即ち著作権は、すでに申請外の二人の著作物から譲渡を受けた債権者に帰属しているのであるから、債権者の承諾なく本件人形を複製し、販売している債務者らの行為は債権者の著作権を侵害する違法なものである。そして右侵害行為が現に継続していることは前記認定のとおりであつて債権者においてこの差し止めを求める緊急性、必要性も疎明される。
四、よつて、債権者において各債務者に対し保証としてそれぞれ金五十万円を立てることを条件とし、主文記載の限度で本件仮処分申請を認容し、申請費用につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 大久保敏雄 菅原敏彦 前原捷一郎)



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