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タイトル

最判 昭43.4.18

まとめ


実用新案の技術的範囲についての判定は行政不服審査の対象とならない。
∵特許庁の単なる意見の表明であって、所詮、鑑定的性質を有するにとどまる
 また、行政不服審査法二条一項にいう事実行為にも該当しない

内容(全文)


主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
上告代理人安原正之の上告理由について。
論旨は、要するに、実用新案の技術的範囲についての判定は行政不服審査の対象となり得ないとした原審の判断が実用新案法二六条、特許法七一条、行政不服審査法二条一項、四条一項の解釈適用を誤り、憲法七六条二項後段に違背する、という。
おもうに、実用新案法二六条によつて準用される特許法七一条所定の判定が行政不服審査の対象となり得るかどうかについては、法律に別段の規定がないので、この問題は、行政争訟の一般原則に従つて解決するよりほかはない。ところで、行政不服審査法が行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に対して不服申立を認めているのは、この種行為が国民の権利義務に直接関係し、その違法又は不当な行為によつて国民の法律上の利益に影響を与えることがあるという理由に基づくものである。従つて、行政庁の行為であつても、性質上右のような法的効果を有しない行為は、行政不服審査の対象となり得ないと解すべきである。
いま、これを判定についてみるのに、判定は、特許等に関する専門的な知識経験を有する三名の審判官が公正な審理を経て行なうものではあるが、本来、特許発明又は実用新案の技術的範囲を明確にする確認的行為であつて新たに特許権や実用新案権を設定したり設定されたこれらの権利に変更を加えるものではなく、また、法が、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)八四条一項二号所定の特許権の範囲確認審判や旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)二二条一項二号所定の実用新案権の範囲確認審判の審決について置かれていたような、判定に法的効果を与えることを前提とする規定を設けていないこと、他方、所論のごとく判定の結果が特許権等の侵害を理由とする差止請求や損害賠償請求等の訴訟において事実上尊重されることがあるとしても、これらの訴訟に対して既判力を及ぼすわけではなくして証拠資料となり得るに過ぎず、しかも、判定によつて不利益を被る者は反証を挙げてその内容を争うことができ、裁判所もまたこれと異なる事実認定を行なうのを妨げられないことに思いをいたせば、それは、特許庁の単なる意見の表明であつて、所詮、鑑定的性質を有するにとどまるものと解するのが相当である。
なお、上告人は、判定が本来の意味における行政庁の処分でないとしても、それは行政不服審査法二条一項にいう事実行為に該当する、と主張する。しかし、同条にいう事実行為とは、「公権力の行使に当たる事実上の行為」、すなわち、意思表示による行政庁の処分に類似する法的効果を招来する権力的な事実上の行為を指すものであるが、判定がこれに当らないことは、多言を要しないところである。
されば、特許法七一条所定の判定は、行政不服審査の対象としての行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為に該当せず、従つてまた、実用新案法二六条により右特許法の規定を準用してなされた本件判定も、行政不服審査の対象となり得ず、これと同趣旨に出た原判決(その引用に係る第一審判決)の判断は、正当であつて所論法令違背の違法はなく、この点の論旨は、理由がない。また、違憲の論旨も、本件判定が行政不服審査の対象としての行政庁の処分その他公権力の行使に、当たる行為に該当することを前提とするものであるが、かかる前提そのもののとり得ないことは、叙上の説示によつておのずから明らかであり、その前提を欠くに帰する。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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