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タイトル

レールデュタン事件(平12.7.11)

まとめ

・他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(商4条1項15号)
⇒広義の混同を生ずるおそれがある商標を含む
∵周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益保護
・広義の混同を生ずるおそれ:
    商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ
4条1項15号における混同の判断方法
 ⇒指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断
  ex:@他人の表示との類似性の程度
     A他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
     B商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途、目的における関連性の程度
     C商品等の取引者及び需要者の共通性
     D取引の実情

審査基準:
 4条1項15号における混同の判断方法
その他人の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれがある場合をもいう。
(1)「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるか否かの判断:
(2)その他人の標章の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)
(3)その他人の標章が創造標章であるかどうか
(4)その他人の標章がハウスマークであるかどうか
(5)企業における多角経営の可能性
(6)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
  等を総合的に考慮するものとする。

内容(全文)

主    文
     原判決を破棄する。
特許庁が平成四年審判第一二五九九号事件について平成九年二月二四日にした審決を取り消す。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人森内憲隆、同近藤純一、同古賀貴泰、同照嶋美智子の上告受理申立て理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告人は、昭和六一年五月二一日、「レールデュタン」の片仮名文字を横書きした商標につき、指定商品を商標法施行令(平成三年政令第二九九号による改正前のもの)別表第二一類「装身具、その他本類に属する商品」として、商標登録出願をし、右商標は、昭和六三年一二月一九日、登録された(登録第二〇九九六九三号。以下「本件登録商標」という。)。
 2 上告人は、指定商品を同別表第四類「香料類、その他本類に属する商品」とする「L’AIR DU TEMPS」の欧文字を横書きした商標(登録第六六一四二四号。以下「引用商標」という。)についての商標権者である。上告人は、香水に「L’Air du Temps」及び「レール・デュ・タン」の商標(以下、併せて「本件各使用商標」という。)並びに引用商標を使用しているところ、本件各使用商標及び引用商標は、本件登録商標の登録出願当時、我が国において香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、上告人の香水の一つを表示するものとして著名であった。
 3 上告人は、平成四年七月三日、商標法四条一項一五号に違反することを理由として、本件登録商標の指定商品中「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」につき本件商標登録を無効にすることについて、審判請求をした(平成四年審判第一二五九九号)。
 4 特許庁は、平成九年二月二四日、上告人の審判請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」という。)をした。
 二 本件は、上告人が本件審決の取消しを請求するものであるところ、原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、上告人の請求を棄却した。
 本件登録商標の登録出願当時、本件各使用商標及び引用商標は、我が国において香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、上告人の香水の一つを表示するもの(いわゆるペットマーク)として著名であったものの、一般的に周知著名であったとまでは認め難く、また、本件登録商標と引用商標は称呼を同じくするものとはいえないから、商品の出所について混同が生ずるおそれがあるとはいえない。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1【要旨1】 商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。そして、【要旨2】「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。
 2 本件登録商標は、本件各使用商標のうち「レール・デュ・タン」の商標とは少なくとも称呼において同一であって、外観においても類似しており、しかも、引用商標の表記自体及びその指定商品からみて、引用商標からフランス語読みにより「レールデュタン」の称呼が生ずるものといえるから、本件登録商標は、引用商標とも称呼において同一である。また、本件各使用商標及び引用商標は、香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、上告人の香水の一つを表示するものとして著名であり、かつ、独創的な商標である。さらに、本件登録商標の指定商品のうち無効審判請求に係る「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」と香水とは、主として女性の装飾という用途において極めて密接な関連性を有しており、両商品の需要者の相当部分が共通する。【要旨3】以上の事情に照らせば、本件登録商標を「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」に使用するときは、その取引者及び需要者において、右商品が上告人と前記のような緊密な関係にある営業主の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがあるということができる。なお、本件各使用商標及び引用商標がいわゆるペットマークとして使用されていることは、本件各使用商標等の著名性及び本件各使用商標等と本件登録商標に係る各商品間の密接な関連性に照らせば、前記判断を左右するに足りない。
 四 以上のとおり、これと異なる見解の下に上告人の本件審決取消請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はその趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、上告人の本件審決取消請求はこれを認容すべきものである。
  よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)

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