タイトル |
ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件 (最判 S53.9.7)
|
まとめ |
複製:既存の著作物に依拠+その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製すること
⇒既存の著作物と同一性のある作品の作成でも既存の著作物に依拠していなければ複製ではない
(過失の有無は問題にならない)
|
内容(全文) |
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人菊池武及び同井上準一郎の各上告理由について
旧著作権法(明治三二年法律第三九号)の定めるところによれば、著作者は、その著作物を複製する権利を専有し、第三者が著作権者に無断でその著作物を複製するときは、偽作者として著作権侵害の責に任じなければならないとされているが、ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従つて、その存在、内容を知らなかつた者は、これを知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、既存の著作物に依拠した作品を再製するに由ないものであるから、既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない。
ところで、原審の確定したところによれば、A楽曲又はその一部である甲曲は、わが国においては乙曲が被上告人aによつて作曲された昭和三八年当時に至るまで音楽の専門家又は愛好家の一部に知られていただけで、音楽の専門家又は愛好家であれば誰でもこれを知つていたほど著名ではなく、他方、被上告人aは、内外のレコード、楽譜の厖大な量のコレクシヨンがある放送局に勤務し、昭和二七年ころ一時レコード係を勤めたほか、昭和三八年当時は演出部長として音楽番組を含むテレビ番組の企画製作についての責任を負い、かつ、その間流行歌の作詞作曲に従事していた者ではあるが、乙曲を作曲した当時A楽曲の存在を知つていたとしなければならないような特段の事情はなく、更に、甲曲と乙曲とを対比すると、動機を構成する旋律において類似する部分があるが、右類似部分の旋律は、A楽曲や乙曲を含むB楽曲のようないわゆる流行歌においてよく用いられている音型に属し、偶然類似のものがあらわれる可能性が少なくないうえ、乙曲には甲曲にみられない旋律が含まれている、というのであり、右事実によれば、被上告人aにおいて乙曲の作曲前現に甲曲に接していたことは勿論、甲曲に接する機会があつたことも推認し難く、乙曲をもつて申曲に依拠して作曲された甲曲の複製物と断ずることはできないから、被上告人a、同株式会社日音が、上告人の主張するように、乙曲を含むB楽曲の複製を他に許諾したとしても、そのことから甲曲を含むA楽曲を複製してA楽曲についての著作権を侵害したということはできない。これと同趣旨の原判決は相当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないか、又は独自の見解に立つて原判決を論難するものに過ぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 岸 上 康 夫
裁判官 団 藤 重 光
裁判官 藤 崎 萬 里
裁判官 本 山 亨
|