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タイトル

キルビー事件 (最判 平12 .4.11)

まとめ

権利濫用の抗弁を認める趣旨
@衡平の理念(←特許権者に不当な利益を与え、発明を実施する者に不当な不利益を与える)
A当事者に無効審判の手続を強いることになる。
B特許法168条2項:無効とされることが確実に予見される場合にまで、手続を中止すべき旨を定めたものではない。
*法改正(特許法104条の3)に注意

内容(全文)

理    由

 上告代理人中村稔、同熊倉禎男、同辻居幸一、同田中伸一郎、同折田忠仁、同 吉田和彦、上告補佐人大塚文昭、同竹内英人、同大石皓一、同弟子丸健の上告理由第一点、第二点及び第四点について
 一 本件は、上告人において、被上告人による第一審判決別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の半導体装置の製造販売行為が後記特許権の侵害に当たると主張するため、被上告人が、上告人に対し、右特許権侵害による損害賠償請求権が存在しないことの確認を請求する事案である。
 原審の確定した事実関係の概要は次のとおりであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
 1 上告人は、発明の名称を「半導体装置」とする特許権(特許番号第三二〇二七五号)を有している(以下、右特許権を「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)。
 2 本件発明は、特願昭三九―四六八九号(以下、「原出願」といい、その発明を「原発明」という。)から、昭和四六年一二月二一日に分割出願(以下「本件出願」という。)されたものであるところ、原出願は、昭和三五年二月六日に出願された発明(特願昭三五―三七四五号)から昭和三九年一月三〇日に分割出願されたものである。
 3 原出願については、原発明が公知の発明に基づいて容易に発明することができるものであることを理由として、拒絶査定が確定した。
 4 本件発明と原発明は、実質的に同一である。
 5 被上告人は、業として第一審判決別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の半導体装置を製造販売している。
 二 原判決は、以上のような事実関係の下において、次のとおり判断した。
 1 本件出願は、これが原出願の適法な分割出願であるとすれば、旧特許法(昭和三四年法律第一二二号による廃止前のもの)九条一項の規定により、原出願の時にされたものとみなされる。しかし、本件出願は、分割出願として不適法であるから、原発明と同一の発明につき原発明に後れて出願したものであり、本件特許は、特許法三九条一項の規定により拒絶されるべき出願に基づくものとして、無効とされる蓋然性が極めて高いものである。
 2 また、本件発明は、公知の発明に基づいて容易に発明することができることを理由として拒絶査定が確定している原出願に係る原発明と実質的に同一であるから、本件特許には、この点においても無効理由が内在するものといわなければならない。
 3 このような無効とされる蓋然性が極めて高い本件特許権に基づき第三者に対し権利を行使することは、権利の濫用として許されるべきことではない。
 三 所論は、右二1及び2記載の原審の各判断の違法をいうとともに、同3記載の判断について、特許権侵害訴訟においては、特許権を有効なものとみなして対象物件が技術的範囲に属するか否かを判断すべきであるにもかかわらず、本件特許権を実質上無効とする判断を行った原判決には、法令違反、審理不尽及び理由不備の違法がある旨主張する。
 四 しかし、二1及び2記載の原審の各判断は、いずれも是認することができる。本件については、先願である原出願について拒絶査定が確定しているけれども、先願の特許出願につき拒絶査定が確定したとしても、その特許出願が先願としての地位を失うものではないから(平成一〇年法律第五一号附則二条四項、右法律による改正前の特許法三九条五項参照)、本件出願は特許法三九条一項により拒絶されるべきものである(最高裁平成三年(行ツ)第一三九号同七年二月二四日第二小法廷判決・民集四九巻二号四六〇頁参照)。また、本件発明は、公知の発明に基づいて容易に発明することができることを理由として拒絶査定が確定した原出願に係る原発明と実質的に同一の発明であるから、本件特許は同法二九条二項に違反してされたものである。したがって、本件特許に同法一二三条一項二号に規定する無効理由が存在することは明らかであり、訂正審判の請求がされているなど特段の事情を認めるに足りないから、無効とされることが確実に予見される(なお、記録によれば、本件特許については、原判決言渡し後の平成九年一一月一九日、無効審決がされ、審決取消訴訟が係属中である。)。
 五 そこで、進んで二3記載の原審の判断について検討する。
 なるほど、特許法は、特許に無効理由が存在する場合に、これを無効とするためには専門的知識経験を有する特許庁の審判官の審判によることとし(同法一二三条一項、一七八条六項)、無効審決の確定により特許権が初めから存在しなかったものとみなすものとしている(同法一二五条)。したがって、特許権は無効審決の確定までは適法かつ有効に存続し、対世的に無効とされるわけではない。
 しかし、本件特許のように、特許に無効理由が存在することが明らかで、無効審判請求がされた場合には無効審決の確定により当該特許が無効とされることが確実に予見される場合にも、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求が許されると解することは、次の諸点にかんがみ、相当ではない。
 (一) このような特許権に基づく当該発明の実施行為の差止め、これについての損害賠償等を請求することを容認することは、実質的に見て、特許権者に不当な利益を与え、右発明を実施する者に不当な不利益を与えるもので、衡平の理念に反する結果となる。また、(二) 紛争はできる限り短期間に一つの手続で解決するのが望ましいものであるところ、右のような特許権に基づく侵害訴訟において、まず特許庁における無効審判を経由して無効審決が確定しなければ、当該特許に無効理由の存在することをもって特許権の行使に対する防御方法とすることが許されないとすることは、特許の対世的な無効までも求める意思のない当事者に無効審判の手続を強いることとなり、また、訴訟経済にも反する。さらに、(三) 特許法一六八条二項は、特許に無効理由が存在することが明らかであって前記のとおり無効とされることが確実に予見される場合においてまで訴訟手続を中止すべき旨を規定したものと解することはできない。
  したがって、特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、【要旨】当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。このように解しても、特許制度の趣旨に反するものとはいえない。大審院明治三六年(れ)第二六六二号同三七年九月一五日判決・刑録一〇輯一六七九頁、大審院大正五年(オ)第一〇三三号同六年四月二三日判決・民録二三輯六五四頁その他右見解と異なる大審院判例は、以上と抵触する限度において、いずれもこれを変更すべきである。
六 以上によれば、本件特許には無効理由が存在することが明らかであり、訂正審判の請求がされているなど特段の事情を認めるに足りないから、本件特許権に基づく損害賠償請求が権利の濫用に当たり許されないとして被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。右判断は所論引用の判例に抵触するものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

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